【Interview】写真家 平野 篤 / MOUNTAIN JOHNNY 石田 巧

2025.05.16

「相棒」が自身を変化させる - 写真家 平野 篤 -
ハイカーの個性はアイテムで決まる - MOUNTAIN JOHNNY 石田 巧 -

 

国内外の山を歩き、雄大な山岳風景を写真に収める写真家・平野篤さん。
自身のロングトレイル経験を土台としてオリジナルギアの製作・販売を手がける「MOUNTAIN JOHNNY(マウンテンジョニー)」の石田巧さん。

WAGONではお二人をお迎えし、5月10日より「IN HARMONY WITH #002 ATUSHI HIRANO & MOUNTAIN JOHNNY -Exhibition & Pop up –」を開催しています。
初日在店した平野さん、石田さんに、今回のイベントにかける思い、創作の原点、宮崎の魅力についてうかがいました。


<平野篤さんプロフィール>
福岡県出身の写真家。九州を拠点に国内外各地の山を歩き、デジタルカメラとフィルムカメラで撮影を手がける。写真展の開催、写真集の販売、額装写真の受注、アウトドア企業への写真提供、執筆、トークショーなど多岐に渡り活動。
世界各国の旅とハイキングを紹介する「humming magazine」のファウンダー。
Instagram:atsushi_mt.photo

<MOUNTAIN JOHNNY|石田巧さんプロフィール>
海外のロングトレイルで感じた空気、培った経験、学んだ知識をギュッと反映させたバックパック。その国立公園のウィルダネスセンターにありそうな架空のショップをイメージして製作した山道具や雑貨。
"Less is More"の精神と"Have Fun"の気持ちを詰め込みました。Happy Trails!
Instagram:mountainjohnny_days



・イベント出店と山歩きはセット

ーー お二人は面識があるようですが、いつごろお知り合いになったんですか?

石田巧さん(以下、石田):初めて顔を合わせたのは、2024年3月に福井県大野市で行われたイベントですね。知り合うきっかけは、篤くんが僕のつくったバックパックのモニターになってくれたこと。Instagramでフィールドテストをしてくれる方を募集したら篤くんが反応してくれまして。彼のことはSNSで知っていたし、使ってほしい一人だったから嬉しかったな。

平野篤さん(以下、平野):「何このバックパック、かっこいい!」と素直な気持ちで反応してました(笑)まさか選んでもらえるとは思わなかったけれど。

石田 そこから連絡を取り合うようになって、篤くんの関わる催しに呼んでもらう仲になったんです。まだ知り合って1年半だけど、いろんな場所で一緒にイベントに出て、山を登って。今回も「WAGONさんでポップアップするけれどどう?」と誘われて「行く行く!」って。3回目の九州で初めて宮崎に来れました。

 平野:フットワークが軽いんですよ。今回も二つ返事で引き受けていただけました。石田さんは神奈川の茅ヶ崎市に住んでいるから、九州に来る機会がない。だから、これまでもイベント後にくじゅうなどにテント泊で登山して遊んでます。

石田:篤くんが完璧なアテンドをしてくれるんです。それが楽しくて、基本的に彼から声をかけられたら行くスタンスです。

・カメラ、オリジナルギア。アイテムが築く独自の登山スタイル

ーーそんなお二人は、山岳写真家、ギア製作と「山」に関わる活動をされています。そもそも、どのように「山」と出会われたのでしょうか?

平野:僕は6歳ごろには親と山を歩き回っていましたね。両親が北アルプスの三俣山荘で出会っているくらい山好きで。自分で山に行くようになってからは極端な登山ばかりしていたんです。立山〜剱岳を日帰りで突破したり、厳冬期のアルプスを縦走したり。写真なんて1枚も撮っていなかった。

あるとき、親に譲り受けたフィルムカメラ(オリンパスOM-1)を持って山を歩いてみたら、今まで気づかずに通り過ぎていた素晴らしい景色に気づいたんです。何てもったいないことをしていたんだって。それから写真を撮り始めるようになったんです。そこが写真家の原点かもしれません。カメラがあると楽しさが倍増するんだなって。山の歩き方も変わりましたね。

 ーー歩き方がゆっくりになるとか?

 平野:カメラを持っていると周りを観察するようになります。しゃがんで地面の草花を見たり、稜線を眺めたり。山の魅力や楽しみ方をカメラが教えてくれました。

 僕の活動の指針として、風景を捉え直すということがあります。みんなが当たり前に登っている山にも、気づくことで見え方が変わる風景があるんだと伝えたくて。北アルプスの絶景ももちろんいいけれど、地元の人に愛されている里山にも魅力があることを伝えたい。



ーー石田さんも平野さんのように山歴が長いのですか?

 石田:僕はまだ浅いですよ。山に行き始めたのは2012年ですね。当時はサラリーマンで、同僚から登山に誘われたのがきっかけでした。最初はすごく嫌で渋々参加したんですが、意外と楽しくて火がついちゃった。みんな疲れているけれど、俺大丈夫だなって。

新婚旅行でも「普段行けないところがいいね」という話になり、2014年にアメリカのジョン・ミューア・トレイルという総距離が約340kmの有名なロングトレイルに挑戦したんです。それが楽しくて楽しくて。

平野:すごいな〜! いきなりジョン・ミューア・トレイルに行くなんて!

石田:そこから本格的にハマってギアを揃え始めるのですが、どのアウトドアショップに行っても自分のほしいものがない。当時は装備をとことん軽くして歩く「ウルトラライト」と呼ばれるスタイルが日本でも広がってきたころ。自分はこのスタイルが好きだなと気づいたのが今の原点だと思います。

 ーー自分でギアをつくって販売しようと思われた経緯は?

石田:そのころ趣味でMYOG(ミョーグ)と呼ばれる自分のギアをつくり始めていて。2019年には自作のギアを装備してジョン・ミューア・トレイルを歩きました。これが上手くいっちゃって調子にのったのが始まりです(笑)

2020年に会社を辞めたときがコロナ禍に突入したタイミングで、半年間は家から出ずに朝から晩までミシンを触ることに没頭していました。


ーーノウハウがないところからどうやって製作を学んだんですか?

石田:ウルトラライトを広めたレイ・ジャーディンが自作のバックパックキットをネット販売しているんです。まず、購入したものを解体して、床に広げてどういう構造になっているか調べるんですよ。そのあと、買ってきた生地で同じようなバックパックをつくりながら機能や仕様を学びました。


ミシンの使い方は業者さんやミシン教室で教わりました。ミシン教室は女性が多く、男性の存在は珍しかったみたい。興味を持っていただいて、縫い方もいっぱい教えてもらった。わからないことだらけだったので涙が出るほどありがたかった。学ぶには飛び込むのが一番手っ取り早いですね。

・自然を楽しむ人、アイテムが集う場所WAGON

ーー今回のポップアップではどんなところに注目してほしいですか?

平野:気軽に写真を飾ってみようよ、ということを伝えたいと思っています。今は写真を撮ることはあってもSNSにアップして満足するか、アップしてもスマホの画面上を2秒で流れてしまう時代。昔はフィルムから現像してプリントして、それをアルバムにしたり額装して飾ったりカジュアルに印刷物として楽しんでいた。その文化を守りたいという思いがあります。僕の写真がその入口になると嬉しいな。

ーー石田さんは自身のギアで推したいポイントはありますか?

石田:使う人の好みに合わせたバックパックを製作できる点が強みだと思っています。生地やステッチの色を選べたり、サイドの仕様や背面長をミリ単位で調節できたり。100%自分でつくっているからこそオーダーに応えられます。眠っているワッペンを縫い付けたり自分用にカスタムする楽しみを提案したいですね。

ーーつくっているご本人が背負うと抜群にかっこいいですね!

石田:つくっている僕が似合わないと説得力がないですから(笑)実際に背負いながら使用感を確かめられるのもイベントの醍醐味だと思います。製作で毎日引きこもっているので、お客様と山やギアの話ができるのも楽しいですね。

平野:うんうん、山のことを存分に話したい。それこそ、WAGONは代表の錦田さんをはじめ自然のフィールドを楽しむ方が集う場所ですし、服のセレクトにも文脈が表れています。ここでイベントを開催できて本当に良かったです。

・個性的で多彩なフィールドが広がる宮崎



ーー宮崎にはどのような印象を抱いていますか? 平野さんは数回訪れているようですが、初宮崎の石田さんに魅力を伝えるとすれば。

平野:僕は福岡の糸島出身なのですが、宮崎は糸島に近いなと感じますね。海も山も魅力的。加えて、美味しいものがたくさんある。山は個性的だし、渓谷や沢など多彩なフィールドがあって楽しめる場所が多い。大崩山なんて大好きです。あんな個性的な山は日本中探してもない。見た目も水墨画にありそうな絶壁でかっこいい。



石田:いいね、僕は個性的な山が大好きだから登るのが楽しみ。難易度も高いと聞いているけれど、記憶に残るのはそういう突出した個性を持つ山。九州の山は北アルプスと異なる良さがありますよね。

平野:九州の山つながりで話すと、展示写真にもあるくじゅうのミヤマキリシマは世界的にも珍しい生態を持っています。山頂がピンクに染まるなんてことはほとんどなくて、海外の人でも「アメイジング!」と驚くくらい。そういう日本の山の良さ、植生の楽しみ方を今回の展示で山オタクとして伝えたいですね。


山との出会いや関わり方は人それぞれ。平野さんはカメラによって。石田さんはギアによって、山との関係性が変化しています。使うアイテムによって人間も、見える景色も変わる。
ただ、ずっと変わらないのは、二人とも山が大好きだということ。

ポップアップは、5月18日(日)まで開催中です。
平野さんの写真、石田さんのギアとの出会いは、あなたの日常を山の魅力で満たしていくことでしょう。



Interview / writing:
半田孝輔noteInstagram

Photo:中山雄太(ひなた写真館




 





 


お問い合わせ先

WAGON / ワゴン
tel : 0985-20-4040
mail : info@wagonoffice.co.jp