【Interview】ikkaku mosaic 井出裕太

2025.03.27

山の記憶を「名もなき山」に再現  - ikkaku mosaic 井出裕太 氏 -

 

間伐材や建築端材を使い、壮大な山をジオラマのようなサイズ感で表現する「ikkaku mosaic(イッカクモザイク)」。山梨県北杜市にある工房で創作活動をスタートし、わずか3年で、企業とのコラボレーションも実現させた話題のクラフトマン・井出裕太さん。

 

そんな井出さんは、今回初めて九州・宮崎を訪れ、WAGONにて「イッカクモザイク展」を開催しています。初日在店する井出さんに、山への思い、創作の背景、そして宮崎やWAGONの印象を伺いました。

 

<井出裕太さんプロフィール>

1982年 長野県南佐久出身。山梨県北杜市在住。

2002年頃より登山、バックカントリースノーボードをはじめ、山を中心とした生活を送る。

2010年、北アルプスに魅了され、松本市内の登山用品店に勤務。

2017年、北杜市の八ヶ岳が一望できる場所へ移住し、木工をはじめる。

自作したアトリエで創作活動をおこない、アウトドブランドとのコラボやワークショップを開催。現在は、見てきた山、歩いた稜線、滑った地形から受けたイメージを表現するべく、山の造形作品を展開している。

Instagram :ikkaku mosaic 

 

木を削り、山を彫る——創作のはじまり

 

—— 井出さんが山をモチーフにした作品を作り始めたのは、どんな経緯だったのでしょうか?

 

井出裕太さん(以下、井出):2022年に知り合いから「山をモチーフにした木のピンバッジを作ってほしい」と頼まれたのが最初でした。試しに木を削ってみたら、沢筋や山の稜線が思いのほかリアルに再現できたんです。

 

—— それまでも木を彫っていたのですか?

 

井出:本格的に木工をやっていたわけではありませんが、木に触れる機会は何度かありました。松本市に住んでいた頃、リンゴ農家の方と話す中で剪定枝の再利用を考え、メガネフレームを作ろうとしたことがありました。でも、細すぎてすぐ折れてしまい、うまくいかなかった。そのときに揃えた道具は、今も山を彫るときに役立っています。

 

 

—— “ikkaku mosaic”という名称にはどんな意味があるのですか?

 

井出:部屋の「一角」でものづくりをしている自分がモザイクタイルのようだと感じて名付けました。

 

—— 名前にも感性が表れていますね!創作活動が始まってまだ3年ですが、どのようにして広く認知されることになったのですか?

 

井出:山を彫っては自分で写真を撮り、Instagramに投稿していました。すると運よく数ヶ月後にアウトドアセレクトショップのNicetime Mountain Gallery 様に見つけていただき、展示販売会を開くことになりました。当時はまだコロナ禍で、アウトドア人気が急激に高まっていた時期。人気ショップとのコラボが実現し、その影響力のおかげです。

 

山に魅せられて——登山、バックカントリー、そして地形への興味

 

 

—— どのようにして山に魅了されていったのですか?

 

井出:最初はスノーボードですね。ゲレンデを滑るのも楽しかったけれど、バックカントリーにハマっていきました。より高いところから滑りたくなり、雪山を登るための道具を揃えていくうちに、登山そのものも楽しくなったんです。

 

次第に、山の地形をもっと知りたくなって、夏も登るようになりました。ずっと山を見ていたので、「ここにはこんな沢筋があるだろう」とか、自然に地形をイメージできるようになったんです。

 

—— ずっと山を見続けたからこそ、形にできるものがあるんですね。

 

井出:そうですね。登山用品店で働いていたときの給料も、ほとんどギアに消えてましたし(笑)。でも、山に関わり、ずっと山を見続けてきたことで、こうやって人に喜ばれるような形になってきたのはうれしいですね。

 

「名もなき山」を彫るということ

 

—— 井出さんの作品は、実在しない山なのだとか。

 

井出:僕が作るのは「名もなき山」。ファンタジーです。実際に登ったり滑ったりした山の記憶やイメージを形にしています。リアルな地図をもとに再現するのではなく、歩いた稜線や沢筋、見てきた地形のイメージを組み合わせて彫っています。

 

初期の頃はジオラマ感覚で、いかにリアルに山を作り込めるかに注力していました。でも最近は、もっと木の質感を楽しんでもいいんじゃないか、と感じています。

 

そびえ立つ、イカつい派手な山を作るだけでなく、山っぽいシルエットなんだけどよく見るとゾクッとするような。そんな山も作りたいという気持ちに変わってきています。

 

 

—— 山を見て「ゾクッとする」とは?

 

井出:自然の山は、時間や季節による日の当たり方で表情が全く違います。部屋の中にある山のオブジェでも、それに光が当たることで自然と同じような山の表情を感じることがあって、そういうときにゾクッとするというか。山好きな人はきっとわかると思いますよ。

 

—— 大きな山を小さく作るにあたって、制作や表現の難しさはどこにありますか?

 

井出:リアルなゴツゴツとした山に加えて、抽象的で柔らかい山も作るようになりました。より抽象的にすればするほど、表現は難しくなります。でも、僕はずっと山を見てきて、その成り立ちや地形をずっと見続けてきました。その経験とバックボーンがあるので、どれだけシンプルにしたとしても、山と認識できる作品がつくれる自信があります。

 

 

 

ーー 山のスペシャリスト・井出さんが生み出すikkaku mosaicの作品。オススメの楽しみ方はありますか?

 

井出:僕は木の質感がすごく好きなので、日常生活の中に木を取り込んで、見たり触ったりするのがまず一つの楽しみ方。そして、光がつくる「影」を一緒に楽しんでもらいたいですね。自然光が当たれば自然な影ができるし、間接照明の下で置き方を変えながらくっきりした陰影を楽しむこともできます。

 

中にはよりマニアックに、太陽の動きをライトで再現しながら1日の影の変化を楽しんだりする人もいます。かなり上級者ですが()

 

 

大前提として、「そこに置いても異質ではない、だけどインパクトがある」。そんな作品を作りたいと思っています。山という壮大なものをどれだけ小さいサイズ感に落とし込めるかを楽しんでいるので、みなさんにもこのサイズ感とリアルさに着目して楽しんでもらえるとうれしいですね。

 

「やっぱり山がある」。宮崎の自然、そしてWAGONとの共鳴

 

 

—— 今回、宮崎訪問は初とのこと。印象はいかがですか?

 

井出:そもそも九州が初めてなので、もう外国に来たかのようです()。海が近くて、背の高いヤシの並木があって。僕の住む山梨には海がありませんから。

 

宮崎市・堀切峠にて(撮影:WAGON錦田)

 

—— 宮崎の山々を見て、いつも見ている山梨の山と違いを感じますか?

 

井出:そびえ立つ大きな山々はありませんが、近くの山並みや里山を見る限りでは、長野や山梨で見てきた山と似てるなという印象です。もちろん、実際に入れば植生などたくさん違いがあるとは思いますが。

 

山梨にはない海やヤシの木がある宮崎でも、反対側を見ればスギやヒノキが育つ里山があって、自宅の窓を開けた時と何ら変わらない景色がそこにある。どこにでも同じように山はあるんだと再認識して、なんだか安心しました。

 

 

—— WAGONの服づくりについて、どう感じましたか?

 

井出:代表の錦田さん(写真/右)とは、好きなものや趣味が似ているので、感覚的に理解できるものを感じます。服づくりのコンセプトも、海と街と山を自然につなげるような考え方があって、とても共感しました。

 

青島の縫製工場で見せてもらった試作品のイメージが、まさに僕好みの一着だったんです。今から非常に楽しみですね。

 

—— 最後に、これからの展望を聞かせてください。

 

井出:最近は木だけじゃなく、ソフトビニール会社とコラボして、内側から光を当てて楽しめるソフビの山も生まれました。素材は木に限定していないし、そもそも「山」というモチーフもそのうち変わるかもしれない。いろんなことを限定せずに自由に楽しんでいきたいですね。

 

 


 

見てきた風景、歩いた地形、触れてきた自然の記憶が刻まれた「名もなき山」。好きなことに熱中し、追究しながらも今に固執しない井出さんの生き方もまた、多くのファンを魅了するのかもしれません。

 

宮崎市・WAGONでの展示は、330日(日)まで開催中。 ikkaku mosaicの作品を通じて登った山や見た風景を思い出し、日常に「山の気配」を取り込んでみませんか。

 

 

Interview / writing:矢野由里(Instagram

Photo:中山雄太(ひなた写真館

 

 

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